「理想的な家計の割合を意識して、効率よくお金を貯めましょう!」
家計の節約について調べたことがある方なら、一度は耳にしたことがある言葉じゃないでしょうか。
「小遣いは収入の一割が理想」とか「貯金は手取りの二割を目標に」というのもよく聞きますよね。
これも『理想的な家計比率』の一種です。
家計を割合で語るのは、FPの家計相談記事では今や鉄板ネタです。
家計相談記事では、「実際の家計簿と理想割合とを比較して、オーバーしてる費目から節約しましょう」、っていう流れがほとんどです。
ですが、家計には理想的な割合があるっていう考え方は正しくないと個人的には思っています。
各家庭で収入の金額が異なるため、家計を割合で管理するのはそもそも不可能だからです。
今回は、「家計費目の理想的な割合」がなぜ正しくないのかについてお話します。
よく言われる理想的な家計割合(家計の黄金比率)
家計の理想割合については、FPの先生方がよく中身を公開していますよね。今回は、有名FPの横山光昭さんのこちらの記事を参考にします。
一般的には家族構成ごとに家計の理想割合が決められていますが、今回は夫婦共働きの子なし世帯(DINKS)を例にお話します。
DINKS世帯の「理想的な家計支出」はこのようになります。
費目 | 割合 |
食費 | 15% |
住居費 | 25% |
水道光熱費 | 5% |
通信費 | 6% |
保険料 | 4% |
趣味・娯楽費 | 3% |
被服費 | 3% |
交際費 | 2% |
日用雑費 | 2% |
小遣い | 12% |
その他 | 3% |
貯蓄 | 20% |
合計 | 100% |
それでは、この比率が本当に理想的なのかどうか、手取り月収が30万円の場合と80万円の場合で比較してみましょう。
手取り月収30万円の場合|理想的な家計比率は妥当
先ほどの「理想的な家計割合」を月収30万円家庭に当てはめてみましょう。
結果はこうなります。
費目 | 割合 | 支出額 |
食費 | 15% | 4.5万 |
住居費 | 25% | 7.5万 |
水道光熱費 | 5% | 1.5万 |
通信費 | 6% | 1,8万 |
保険料 | 4% | 1.2万 |
趣味・娯楽費 | 3% | 0.9万 |
被服費 | 3% | 0.9万 |
交際費 | 2% | 0.6万 |
日用雑費 | 2% | 0.6万 |
小遣い | 12% | 3.6万 |
その他 | 3% | 0.9万 |
貯蓄 | 20% | 6万 |
合計 | 100% | 30万 |
それでは、各費目をチェックしていきましょう。
食費の45000円は妥当でしょうね。夫婦二人で一食当たり500円。この位の金額が確かに理想的な気がしますね。
住居費75000円に関しては何ともいえないですね。住居費は住む場所によりますから。勤め先が都心部ならむしろ足りないくらいですし、地方なら高すぎますかね。
水道光熱費も妥当でしょう。夫婦二人であれば1LDKか広くても2LDKですからね。水道代3000円、電気代8000円、ガス代4000円って感じですかね。
通信費18000円は高いですね。ネット代3~6000円、スマホ代2000円×2程度が理想的でしょう。通信費は1万円もあれば十分です。
保険代は収入よりも貯金額によって決まりますが、月収30万で貯金があまりないのであれば、保険料は妥当なんじゃないでしょうか。夫婦の健康保険4千円×2と、生命保険4千円といった感じですかね。
このように見ていくと、月収30万円の家庭に対しては「理想的な家計支出割合」は概ね妥当なんじゃないでしょうか。明らかにおかしいのは通信費くらいのものですね。
この結果だけを見ると「理想的な家計支出割合は家計管理の参考になるじゃん!!」って結論になるんですが、実はそんなに単純な話ではないんです。
この「理想的な家計支出割合」は、収入が高い家庭については全く参考にならないんです。
手取り月収80万円の場合|理想的な家計比率は明らかにヘン
次は、手取り月収80万円の場合について見てみましょう。
費目 | 割合 | 支出額 |
食費 | 15% | 12万 |
住居費 | 25% | 20万 |
水道光熱費 | 5% | 4万 |
通信費 | 6% | 4.8万 |
保険料 | 4% | 3.2万 |
趣味・娯楽費 | 3% | 2.4万 |
被服費 | 3% | 2.4万 |
交際費 | 2% | 1.6万 |
日用雑費 | 2% | 1.6万 |
小遣い | 12% | 9.6万 |
その他 | 3% | 2.4万 |
貯蓄 | 20% | 16万 |
合計 | 100% | 80万 |
…パッと見、もうめちゃくちゃなのが分かりますよね。こんな家計が「理想的な支出割合」なわけないですよね。
まず、夫婦二人で食費が12万はどう考えても高すぎますよね。相当な頻度で外食したりするのが理想的な支出なんですかね?
住居費もおかしいです。家賃20万円も出せば、東京23区でもファミリーマンションが借りられちゃいますよ。夫婦二人で都内のファミリーマンションにわざわざ住むのが節約生活なんでしょうか?
水道光熱費4万円は、逆にこんなに使うのが難しいですよね。わざと無駄遣いしろってことなんでしょうか?
通信費の4.8万はどうすればこんなにお金を使えるのか逆に聞きたいくらいです。月2万もするスマホのプランとかむしろあるんでしょうか?というか、通信費に関してはどんなに収入が高くても格安スマホ+ネットの月1万円で十分だと思います。
保険料3.2万円も謎です。基本的に保険はお金に余裕がある人ほど必要ないんですが、何で先ほどの月収30万円の場合の試算より増えてるんでしょうか?月収80万円でしたらそれなりに貯金もあるので医療保険は不要でしょうし、遺族年金の額も多くなるので生命保険も少なくて済みます。保険料に3.2万もかけるのは無駄以外の何物でもないでしょう。
とまあ、本当にツッコミどころ満載ですよね。「理想的な家計支出の割合」なんて全く使い物にならないし、机上の空論にすらなっていないことがよく分かっていただけたかと思います。
理想の家計割合なんて決められない!!
そもそも、家計の適切な支出額を「比率」で定義するのがムチャなんですよね。
家計の費目には、
- 年収に伴って増えるもの
- 年収に伴って減るもの
- 年収に関わらず変わらないもの
の3つがあるからです。
「年収に伴って増えるもの」の代表例は貯蓄額ですよね。月収30万の家庭より、月収80万の家庭のほうが貯蓄額が多い方が望ましいです。
「年収に伴って減るもの」の代表例は保険です。保険はお金があれば入る必要がないものなので、年収が増えれば (貯蓄額が増えれば)保険料は減ります。
「年収に関わらず変わらないもの」の代表例は水道光熱費や通信費です。これらは必要経費の意味合いが強いので、年収が増えたからと言って支出を増やしても意味はありません。年収が増えたからと言って電気・水道やガスを無駄遣いするのは意味不明ですし、月々定額のネット代やスマホ代を年収に応じて増やすなんてことは不可能です。
一方、「家計の理想的な支出割合」は、全ての支出が年収とともに増えるって考え方なんですよね。
なので、「年収に伴って減る」費目と「年収に関わらず変わらない」費目に対しては、原理的にうまく扱えないんですね。
ですので、「家計の理想的な支出割合」を決めようとすること自体がそもそも誤りなんです。
割合で家計をとらえることは原理的に不可能なんです。
ポイント
- 『理想の家計割合』は月収30万円の家庭にとっては妥当だが、月収80万円の家計にとってはメッチャクチャ
- 理想的な家計は割合ではなく、金額で決まる。なので、『理想の家計割合』を語るのはナンセンス
まとめ
今回は、家計の理想的な支出割合についてお話しました。
「小遣いは収入の1割が最適」とか「家賃は月収の3割」など、様々な「理想的な支出割合」論が世の中にはあります。
しかしながら、適切な家計を支出割合から定めるのにはムリがあります。
支出には、「年収が増えると減るもの」や「年収が増えても変わらないもの」も含まれるからです。